「Volumetric Videoデータの教育活用」Scheme Dの活動を通じて

アクター紹介

中川 源洋(なかがわ よしひろ) 株式会社ニコン映像ソリューション推進室

Volumetric Videoデータの教育活用

Volumetric Videoデータは空間そのものを3次元データとして動的に記録する技術で、自由に視点を移動させたデータの再生が可能であり、その自由度の高さから映像表現領域での利用が主体である。今後は幅広い領域での活用が期待されている。 特に教育領域では顕著である。 Volumetric Videoデータは、実演できる教師がいない場合などオンライン教育などで活用できるだけではなく、実演できる教師がいたとしても、実演中にポイントの説明ができないといった課題を解消し、教育効果の向上が見込める。 筆者らは、東北文教大学の協力のもと、通常の動画とVolumetric Videoによるダンスの習熟度に対する比較を実施した。実験によると、視点を自由に変化させられるVolumetric Videoの特性により、通常の動画と比べて、学習効果を向上できることが分かった。

図1 Volumetric Videoデータによる学習効果向上

可搬型システムによる教育領域への適用

Volumetric Videoデータの生成を専用のスタジオで実施すると非常に高い品質のデータを得られるが、演者がスタジオまで出向く必要がある。そのため制約の大きな教育領域での活用が難しかった。そこでスタジオ型のシステムと比べて1/20程度に撮影カメラ数を削減できる可搬型のシステムの開発を進めている。可搬型のシステムを用いれば、演者に移動を強いることがなく、近くにスタジオがない場所や実際の教育の現場でのデータ取得が可能となる。

図2可搬型システム概要

図3 山形県白鷹町での民俗芸能記録の様子

Scheem-Dでの採択

教育領域は筆者の所属する企業にとっては新規の事業領域であり、想定顧客との接点が少ないことが課題であった。そこで、文部科学省が主催し、スタートアップ支援を進めるCIC Tokyoが事務局を担う「文部科学省Scheem-D」プロジェクトに応募させていただいた。その採択後の交流やピッチイベントでの登壇により、同じ採択者との議論、メンターのサポート、ピッチイベントでの参加者からの声に触れることができ、システムの改良や具体的なサービスへの展開を進められるようになった。ピッチイベントを契機として、教育委員会や、大学、小学校といった関係機関と、無形文化財のアーカイブ、教育用コンテンツ活用といった事例を積み重ねることができた。 例えば、文科省の委託事業である「教員研修高度化支援 教員研修の高度化に資するモデル開発事業」では、熊本大学の依頼でマット運動のVolumetric Videoデータを試作した。従来の教員研修では図面や動画を用いていたが、それをVolumetric Videoデータに置き換えることで、より深い研修となることを期待している。将来的には、実際の授業での活用も狙っている。

図4 熊本大学マット運動Volumetric Videoデータ

Scheem-D登壇者とは、東京学芸大学の鈴木准教授との協業を進めることができた。鈴木教授は 教師の養成・採用・研修の一体的改革推進事業の一環で、メタバースを活用した先導的な教員養成・教員研修システムの開発を進めている。メタバース空間でのアバターはデフォルメされたものを用いることが一般的である。教師の研修では、その後実際に顔を合わせることもあるため、現実と仮想の間での差が大きいと違和感を与えてしまう。そこで可搬型システムを活用し、メタバース用のアバターを作成した。今回作成したアバターは撮影データを基本にしているため、現実との差を縮小している。今後実際の研修での活用を予定している。

図5 東京学芸大学実写風アバター作成実験

今後の展望

今後はこれまでと同様に、Volumetric Videoデータの教育活用事例の積み上げを継続していく。特に、実際の児童・生徒・学生といった現場での活用の場を増やし、教育効果の向上に貢献したい。その際、教育委員会や教育機関との接点の構築が必須である。Volumetric Videoデータの活用方法の提案、協業の場のご紹介等これまで以上のご視点を期待する。