「コンピテンシー基盤型教育による学修成果・看護実践・看護成果の可視化」の実現に向けた取り組みとScheem-Dによる成果

アクター紹介

西村 礼子(にしむら あやこ)

2006年名古屋大学医学部 保健学科看護学専攻卒業 看護学学士
2012年東京医科歯科大学 保健衛生学研究科 博士(前期)課程修了 看護学修士
2017年東京医科歯科大学 保健衛生学研究科 博士(後期)課程修了 看護学博士
順天堂大学医学部附属順天堂医院 看護師勤務、東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科非常勤、東京医科大学医学部看護学科助教を経て、2019年より東京医療保健大学 医療保健学部・大学院保健学研究科 准教授(現職)。学長戦略本部教学マネジメント・DX推進プロジェクトチームサブリーダー、総合研究所 教育DX研究ユニット(医療DX)副ユニット長。
専門領域は基礎看護学・看護教育学。

DX化時代の効果的・システマティックなコンピテンシー基盤型教育による看護実践能力向上、学修成果・看護成果・教育デザインの可視化を目指し、学修・教育・実践・評価のスキームのための活動に取り組む。

https://researchmap.jp/nishiaya*連絡先・お問い合わせはこちら

https://www.thcu.ac.jp/database/detail.html?id=595

Scheem-Dへの応募

私は、基礎看護学・看護教育学の研究者として、看護教育における教育デザイン研究に取り組み、学修成果(診断的・形成的・総括的評価)や査定(授業・教育・組織評価)の科学的検証を進めている。コンピテンシー基盤型教育(Competency-based education:以下CBE)、コンピテンシー基盤型カリキュラムやシステムの構造・過程・成果を可視化することで、カリキュラムマネジメントや教学マネジメント、看護基礎教育・継続教育をつなぐ人材育成の仕組み、看護成果や看護の質保証への貢献を目指し、Scheem-Dに応募した。

現代社会は、超少子高齢社会・人口減少社会へと突入し、看護の対象の高齢化、状態と背景の複雑化、入院期間の短縮化に伴う他施設・多職種連携、地域包括ケアシステムの構築(住まい・医療・介護・予防・生活支援の一体的な提供)への対応など看護実践能力の高度化、タスクシフト・シェアによる役割拡大(範囲と深さ)が加速している。看護基礎教育と継続教育との乖離、求められる実践能力のギャップ、看護基礎教育でのカリキュラムの過密化が問題視される中、学修成果を最大限にするような教育デザインの検討は急務である。

医療専門職の基礎教育・継続教育・大学院教育のプログラムは,コンピテンシーと呼ばれる医療専門職としての実践能力を学修成果として定義するCBEに移行してきた1)。CBEは,コンピテンシーが明確に示された学習に対するアウトカムベースのアプローチであり,カリキュラムの開発,実施,評価を中心とする2)。CBEでは,発達段階を説明するマイルストーン3)を示すことで,基礎教育と継続教育をつなぐシームレスな学習者の達成水準を設定し、形成的評価として学習者が次の段階を達成するための支援となる。達成水準や評価基準項目の設定としては、委託可能な専門的活動(Entrustable Professional Activities; EPA)4)の考え方が国際的にも広がり、学生の実習中での実践能力を保証した後に、専門的実践可能な範囲を設定している。

国内外問わず初等中等教育・高等教育で目指すべきコンピテンシーとアウトカムの明確化、学修成果の可視化、情報公表、アカウンタビリティが求められ、学修成果と教育成果から看護実践と看護成果につながる看護教育の質、対象の健康やQOLにつながる看護の質保証となるCBEが必要であると考え、実現に向けた取り組みの一つとしてScheem-Dへ応募した。

2021年度Scheem-Dでの登壇

2021年10月27日文部科学省高等教育局 大学教育のデジタライゼーション・イニシアティブ (Scheem-D)では、「看護実践能力(コンピテンシー) 基盤型システムによる学習・教育の構造・過程・成果の可視化」の開発を行いたいと考え、登壇した5)。効果的・魅力的・システマティックな教育、DX化に取り残されない学生・教員・大学教育全体の仕組みから臨床の看護につながることを期待したものだった。プレゼンは、看護教育における到達すべき能力の明確化と看護実践を評価する仕組み、データの散在・過重負荷・格差等の課題を解決するために、開発企業や研究者ならびに団体の方々からのご支援を賜り、今後のシステム考案の可能性について模索するというものである。

Steering committeeからの質問と意見交換では「コンピテンシー基盤型システムの開発よりコンピテンシーを定量化・数値化・言語化、デジタルに移行する評価基準・評価指標の作成が先ではないか」というものであった。この問いは、看護教育において、「コンピテンシーやアウトカムの設定が先か?」「教育と評価のスキームが先か?」「データ収集・蓄積・分析できるシステムが先か?」「実践ベースのエビデンスの蓄積が先か?」「啓蒙活動による仲間集めが先か?」という本質にかかわるものだった。これらは、研究者・教育者・実践者・技術者それぞれが単独実施できるものでも、ある組織や企業が社会に普及できるほどの成果があげられるものでもない。

どのアプローチ方法も長い道のりであり、複雑に絡み合い、簡単に解決するものは何一つない。現状と課題の抽出だけでも、大規模調査によるデータ収集・分析が必要であり、中長期から単年度計画に落とし込みKPIを立てることも、実現可能性を高める方略を考案することも、それを証明するための予算獲得も難しく、実現には多くの支援と長い時間が必要であることはもちろん理解していた。しかし、看護教育ならびに臨床現場の課題として、看護学生・看護職・看護教育者の負担や疲弊の増加、退職者の増加、実践能力の低下などがあり、医療を支える看護職の看護教育・臨床現場・次世代への支援は急務であり、猶予はないと考えている。

実現可能性が低く、何からどのように進めることができるのか?という問いに対して、スキームDコミュニティでの大学教職員・学生・技術者・スタートアップ経営者・企業社員・Steering committeeの方々は否定することなく、議論を深め、可能性を広げてくれた。メンターからは「3つのWHY:なぜこのサービスをやるのか?なぜ今なのか?なぜあなたのか?」を問い続けるよう助言をもらった。 

Scheem-D登壇後、多くの研究者や企業の方々のアポイントにより、直接的な課題解決や支援は難しいものの、CBEならびに学修・教育成果の可視化のための間接的な支援、今後の支援の可能性が提供された。何よりも他分野の多くの方々のコネクションは多分野融合の可能性につながるものだった。

ピッチ登壇時の様子(2021年10⽉27⽇)

Scheem-D後の活動:CBEによる学修成果の可視化のための取り組み

Scheem-D後、「CBEによる学修成果・看護実践・看護成果の可視化」を実現するための様々な機会をいただき、活動を進めてきた。例えば、対談の機会としては、「成果に結びつく教育とは何かを考える」6)、「看護教育と臨床現場の距離感を縮めるには?」7)、執筆は「カリキュラム改革と教学マネジメントと質保証 CBEの実現を目指して」8)、学会のシンポジウムでは、「Society4.0から5.0への教育デザインの転換-コンピテンシー基盤型教育の学修成果・看護実践・看護成果が示す教育と評価のスキーム-」9)、「Simulation-based learning(SBL)のPDCAサイクルの実現を目指す看護教育DX」10)、「学修課程・成果の可視化を目指した医療系DXの取組み」11)、などの機会を受けた。

また、企業とのコラボレーションでは、「CBEをめざしてーICTを活用した、臨床判断能力を測定する問題作成」12)連載、「シミュレーションの意義から導入、授業設計まで~2022年度改正カリキュラムにむけて~」13)での執筆とオンライン座談会、「メディカルスタッフ教育で進むDXの現在」14)などのウェビナー・オンデマンド配信などがある。FD研修としても看護教育だけでなく、医療系教育、全学の教職員・大学院生対象となるSD/プレFDなどの機会も多く得ることができ、CBEによる教育と評価のスキーム、学修成果の可視化の必要性、進めるための提案の機会をいただいた。取り組みの紹介は一部ではあるが、提案・多分野連携につながった機会、支援をいただく機会は私にとって非常に価値あるものである。

 さらに、多分野融合となる共同研究、共同研究のための助成金申請、今後の共同研究計画を進めることができた。すでに成果発表されたものとしは、2021年度スキームDでアクターとして登壇した笹谷氏との「コンピテンシー基盤型のCAD/CG教育」15)である。このように、2021年度Scheem-Dでのプレゼン以降、多分野融合、産学連携につながるような様々な機会を得ることができた。一番大きい成果としては、どんなに可能性が低くとも、看護職の看護教育・臨床現場・次世代への支援につながるような活動へ一歩を踏み出すことができたことだと考える。

今後の活動:CBEならびにコンピテンシー基盤型カリキュラムやシステムの可能性

海外ではCBEから生み出される教育・実践の成果を、基礎教育と継続教育と臨床をつないだビッグデータやLearning Analyticsを活用し、社会に説明している。例えば、The American Association of Colleges of Nursing (AACN)のThe Factでは,看護学士の学位(BSN)を持つ看護師の実践能力を高く評価16)し、教育が看護実践と看護成果にもたらす違いとして、入院患者の生存率や死亡率や投薬ミスなどに影響することを示すデータ17)を20年以上かけて蓄積し、医療の安全とケアの質に大きく影響することを社会に発信している。また、アメリカの次世代看護師国家試験(Next Generation NCLEX®)18)もコンピテンシーとアウトカムとその後の実践能力の実証、実践能力が社会にもたらす影響を説明している。日本の医療教育においてもCBEからアウトカム設定と学修方略との一貫性,基礎教育と継続教育を含む一貫性ある教育と評価のスキームが進められており、CBEやコンピテンシー基盤型カリキュラムやシステムから得られたデータと医療職のメンタルヘルスや労働時間や研修環境との関連など、教育成果からの医療成果が説明されている。

現在、私は、2021年Scheem-D登壇以降も、登壇以前と同様、日本の看護教育における教育デザインに基づく観点から段階的な教育と評価のスキームの可視化による学修成果・看護実践・看護成果を教育・医療DXにより実現・共有できることを目標に、活動を継続している。看護学分野だけでは難しいことも、多分野融合により、今後は学習者個人の学習履歴・学習行動・学習進度・成績のデータと教育機関の授業・科目・学年・学位・大学レベルのデータがもっと関連付けられ、効果的な教育のPDCAサイクルと提案につながると考える。また、看護教育に求められるコンピテンシー・アウトカム・学習方略の一貫性の評価、教育プログラム・カリキュラム開発、認証評価(機関別・分野別)や内部質保証により、臨床の看護実践や看護成果や看護の質保証など対象の方々や社会にとって直接的な利益につながるデータを示すことが可能なのではないかと現在も考えている。さらには、これまではデータ化することが難しかった学修成果・看護実践・看護成果・看護関連アウトカムをすべて紐づけてビッグデータを作成し、データ解析・結果の可視化からフィードバックという基礎教育・継続教育・実践・看護の質・対象の健康とQOLといった広大なPDCAサイクルの実現につなげることも可能になるのではないかと考える。

「コンピテンシー基盤型教育による学修成果・看護実践・看護成果の可視化」の取組みが、看護職の看護教育・臨床現場・次世代の支援となることを心から期待し、今後も活動を継続する。